京都地方裁判所 昭和55年(ワ)1168号 判決 1982年6月17日
原告
尾山栄一
被告
井上隆
ほか二名
主文
一 原告に対し、
(一) 被告井上隆、同山川プロパン瓦斯株式会社は各自金一二六万七〇八五円及びこれに対する昭和五一年一〇月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員
(二) 被告株式会社トヨタレンタリース京都は金九七万五二一六円及びこれに対する昭和五三年四月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告らの負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
被告井上隆、同山川プロパン瓦斯株式会社は各自原告に対し九〇七万七六六八円及びこれに対する昭和五一年一〇月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
被告井上隆、同山川プロパン瓦斯株式会社、同株式会社トヨタレンタリース京都は各自原告に対し二六八二万三四九七円及びこれに対する昭和五三年四月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
仮執行宣言。
二 被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五一年一〇月二六日午後三時三五分頃京都府宇治市宇治二番一番地先府道宇治淀線交差点において普通乗用自動車(原告車という。)を運転し右折して駐車場へ入るため一時停車したところ、被告井上隆は普通貨物自動車(井上車という。)を運転し対向左折して原告車の左後方に追突した(第一事故という。)。
2 原告は、昭和五三年四月八日午後五時一〇分頃京都市左京区一乗寺清水町一七番地白川通りの信号機によつて交通整理されている交差点において原告車を運転して南進し右折西進しようとしたが対向直進車があつたので一時停車していたところ、沢田哲夫運転のレンタカー(沢田車という。)が原告車左後方に追突した(第二事故という。)。
3 原告は、第一事故により嶋田外科医院等で頸椎捻挫等の診断を受け昭和五一年一〇月二六日から同五三年四月七日まで(実治療日数三一七日)通院加療中のところ、第二事故が重なり同医院で背部右肩胛部打撲等の診断で同月一〇日から昭和五四年九月二七日まで(実治療日数二三三日)通院して加療を受けた。後遺症の程度は自賠法施行令2条所定の一四級に該当するものと認定されている。
4 被告山川プロパン瓦斯及び同井上隆は井上車の保有者であり被告井上は同山川プロパン瓦斯の専属的下請の運送業者として自ら及び同会社のため井上車を運行中同人の前方等注視義務違反の一方的過失により第一事故が発生したのであり、被告トヨタレンタリース京都は沢田車の保有者であり顧客沢田の運行中同人の原告車に対する動静誤判の一方的過失により第二事故が第一事故の負傷の治療中に発生したから、被告井上及び同山川プロパン瓦斯は第一事故及び第二事故による原告の損害につき、被告トヨタレンタリース京都は第二事故に基づく原告の損害につきそれぞれ自賠法三条により賠償すべき責任がある。
5 損害
(一) 逸失利益
(1) 原告は太平住宅株式会社のセールスマンであり、第一、第二事故による受傷に基づき昭和五四年一〇月三一日まで休業した。
第一事故による減収合計額は七五七万八四五八円であり、第二事故以後の減収合計額は二五三二万一一七七円である。
(2) 逸失利益についての予備的主張
<1> 第一事故による減収
<イ> 原告の太平住宅における昭和四六年度ないし同五一年度の平均年間所得は五九一万八九八八円、第一事故により余儀なくされた休業期間は昭和五一年一〇月二六日より同五三年四月七日まで五二九日間、これによる減収分は八五七万八四七八円である。
<ロ> 失つた昇給分 昭和五二年四月と同五三年四月の各月額五〇〇〇円、これについての就労可能の五七歳迄(そのホフマン係数は五二年分について九・二一五一、五三年分について八・五九〇一)の減収合計額は一〇六万八三一二円である。
<ハ> 失つた退職金及び退職年金 本来得べかりし退職金(一年間の平均受注高(昭和四六年から同五三年三月まで分について六一九八万円)の一〇〇万円に対し五〇〇円の割合で功績金(三万〇九九〇円)を出し、これと退職時の基本給(九万六一〇〇円)を合算した額に勤続年数(昭和三七年九月一日から同五三年四月八日まで一八八か月)と係数(一・三)を各乗じ、一二で除した額)は二五八万八四〇〇円、退職年金(功績金に係数一・二を乗じた分の六〇か月分)は二二三万一二八〇円。現実に得る退職金(平均受注高は四九一四万円に、功績金は二万四五七〇円に、勤続年数は昭和五一年一〇月二六日迄の一七〇か月に各減少)は二二二万二三三九円、退職年金は一七六万九〇四〇円となる。その各差額、退職金について三六万六〇六一円、退職年金について四六万二二四〇円が損害である。
<2> 第二事故による減収
<イ> 第二事故により余儀なくされた休業期間は昭和五三年四月九日から同五四年一〇月三一日まで五七一日間、これによる減収分は九二五万九五六八円。
<ロ> 失つた昇給分 昭和五四年四月に各月額五〇〇〇円、これについての就労可能の五七歳迄(そのホフマン係数七・九四四九)の減収分合計額は四七万六六九四円。
<ハ> 失つた退職金及び退職年金 本来得べかりし退職金(前同昭和四六年から同五四年一〇月三一日までの一年間の平均受注高五一三一万円、昭和三七年九月一日から同五一年一〇月二六日まで、同五三年四月九日から同五四年一〇月三一日までの勤続年数一八九か月、功績金二万五六五五円に基ずき算出)二四九万二九三四円、退職年金一八四万七一六〇円。現実に得る退職金(平均受注高は四〇三三万円に、功績金は二万〇一六五円に、勤続年数は一七〇か月に各減少)は二一四万一二一四円に、退職年金は一四五万一八八〇円に各減額され、その各差額は退職金について三五万一七二〇円、退職年金について三九万五二八〇円であつてこれが損害である。
<3> 後遺障害による逸失利益
原告は第二事故により自賠法施行令二条所定後遺症一四級(労働能力喪失率五パーセント)に該当するとの認定をうけており、基本年収五九一万八九八八円、就労可能年数一〇年(そのホフマン係数七・九四四九)、これによる将来の逸失利益は二三五万一二八八円である。
(二) 治療費(原告負担分)
第一事故による負担額 四九万九二一〇円。
第二事故による負担額 六万二三二〇円。
(三) 慰藉料
第一事故による治療期間に対し二〇〇万円。
第二事故以後の治療期間に対し二〇〇万円。
後遺症に対し一〇〇万円
(四) 損益相殺
第一事故に関し労災保険よりの支給額二六〇万五六八〇円、自賠責保険からの支給額一〇〇万円のうち労災に支払われた五九万七〇八九円を控除した残額四〇万二九一一円。
第二事故に関し自賠責保険よりの支給額一五六万円。
6 よつて、原告は、被告井上、同山川プロパン瓦斯に対し各自第一事故に基づく前記損害金のうち九〇七万七六六八円及びこれに対する第一事故日の翌日である昭和五一年一〇月二七日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、被告井上、同山川プロパン瓦斯、同トヨタレンタリース京都に対し各自第二事故以後の前記損害合計額二六八二万三四九七円及びこれに対する第二事故日の翌日である昭和五三年四月九日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告井上隆、同山川プロパン瓦斯の認否及び主張
1 請求原因1の事実は認める。同2、3の事実は不知。同4の事実のうち、第一事故に関する事実及び賠償責任を認め、その余は不知。同5の事実のうち、(四)の第一事故に関する部分を認めその余は不知。同6は争う。
2 原告は、第一事故による休業補償として太平住宅より三一万一九四〇円、労災保険を含む社会保険より三四七万四二四〇円、自賠責保険より四〇万二九一一円、合計四一八万九〇九一円の支払を受けているから損益相殺されるべきである。
三 被告トヨタレンタリース京都の認否及び主張
1 請求原因1の事実は不知。同2の事実のうち、事故現場が信号機により交通整理されている交差点であること及び対向直進車があつたことを否認しその余を認める。同3の事実のうち、原告が後遺症一四級の認定を受けたことを認め、その余は不知。同4の事実のうち、被告トヨタレンタリース京都が沢田車の所有者であり顧客沢田の運行中に第二事故が発生したことを認め、その余は不知。同5の事実のうち、(四)を認め、その余は不知。同6は争う。
2 第二事故は極めて軽微な事故であつて沢田車は右ヘツドライト付近を軽く凹損し修理費二万四四〇〇円を要したに過ぎず原告主張の症状と第二事故との間には相当因果関係がない。
第三証拠〔略〕
理由
一 (事故の発生)請求原因1の事実は原告と被告井上隆、同山川プロパン瓦斯間で争いがなく、同2の事実は事故現場が信号機により交通整理されている交差点であること及び対向直進車があつたことを除き原告と被告トヨタレンタリース京都間で争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一ないし一七、同第二号証の一ないし二〇、証人沢田哲夫の証言及び原告本人尋問第一回の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
昭和五一年一〇月二六日午後三時三五分項京都府宇治市宇治二番一番地先府道宇治淀線の交通整理の行われていない交差点において被告井上は被告山川プロパン瓦斯所有の普通貨物自動車を運転して西進し先行車に続いて時速約二〇キロメートルで右折北進しようとしたが先行する原告車が交差点北東側にある駐車場手前で右(東)方に寄りながら停車したのでその左方を通過しようとしたところ左前方約六・四メートルの交差点北側横断歩道上西寄りに自転車を持つて立ち止つている人を認め慌わてて右に転把し急制動措置をとつたため、原告車の左後部に自車右前部を追突させた(第一事故)。この衝激による車両損傷の程度は、井上車が修理費約三〇〇〇円を要する右前部バンバー擦過損、原告車が修理費約二万円を要する左後部フエンダーバンバー凹損であつた。
また、昭和五三年四月八日午後五時一〇分項京都市左京区一乗寺清水町一七番地先通称白川通りの交通整理の行われていない三差路において沢田哲夫は被告トヨタレンタリース京都所有の普通乗用自動車(レンタカー)を借用運転し先行する原告車に追随して南進中原告車が減速しているのを前方約五・七メートルに認めたがそのまま直進するものと考えて接近し、右折西進しようとして停止した原告車を右前方約二・九メートルに気付き慌わてて急制動措置を講じたが間にあわず原告車後部に自車右前部を追突させた(第二事故)。この衝激による原告車損傷の程度は修理費約四〇〇〇円を要する後部バンバー左側凹損であつた。
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 (責任)被告山川プロパン瓦斯及び同井上は井上車の保有者であり被告井上は同山川プロパン瓦斯の専属的下請の運送業者として自ら及び同会社のため井上車を運行中第一事故が発生したものであることは右当事者間に争いがなく、被告トヨタレンタリース京都は沢田車の所有者であつて顧客沢田の運行中第二事故が発生したことは同当事者間に争いがない。
以上によると、被告井上、同山川プロパン瓦斯は第一事故による原告の損害につき、被告トヨタレンタリース京都は第二事故による原告の損害につきそれぞれ自賠法三条により原告の生命身体に生じた損害を賠償すべき責任があるものというべきである。
三 (傷害の内容程度)成立に争いのない甲第二号証の四、九、一二、同第三号証の一ないし六、同第五号証の一、二、丙第一号証、乙第三、第四号証、原告本人尋問(第二回)の結果により成立を認める甲第九号証と証人嶋田三千秋の証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨によると次の事実を認めることができる。
原告は、第一事故により昭和五一年一〇月二六日京都市左京区一乗寺燈籠本町二七番地嶋田外科医院で頸部捻挫の診断を受けその後通院して治療を受けていたが、昭和五二年八月二二日から同年一〇月六日まで四六日間入院し、退院後症状が固定した昭和五三年四月七日まで(実治療日数三一七日)再び通院して治療を受けた。
昭和五三年四月七日当時レントゲン検査の結果では異常はなく神経学的異常は認められないが自覚症状として大側頭神経に軽度の圧痛があり頸部前屈時背部に緊張感、右上肢の運動時に肩部に疼痛がまた右こめかみに疼痛、手先にしびれ感、手の脱力感等を訴えていた。なお、第二事故は原告が建築関係の仕事で現場に下見に行くため自動車運転中に発生したものである。
第二事故当時、担当警察官は物損事故として処理していたがその後昭和五三年四月一〇日原告は再度前同医院で背部右肩胛部打撲の診断を受け同年一一月三〇日以降症状固定状態に入り最終的に症状が固定した昭和五四年三月三一日まで(実治療日数二八一日)通院して治療を受け、さらに、同年四月二五日以降同年九月二七日まで通院受診した。また昭和五四年七月二四日同市左京区聖護院川原町五四番地京都大学医学部付属病院で診察を受け神経学的検査では大側頭神経の軽度圧痛、めまいが認められた外異常はなく頸椎レントゲン撮影、脳波検査、CTスキヤンの各検査結果ではすべて正常であつたが、朝方息苦しくなる、こめかみに冷水が走るような感じ、頸部に鉄板を当てられたような感じ等の自覚症状があり頸部損傷による症候群、眩暉症の診断を受けた。
その後原告は、昭和五四年一一月一日より出勤し職場復帰していたが、さらに同年一二月一三日京都市内烏丸通りで二輪車を運転中貨物自動車と衝突する事故を起して休職し前記嶋田外科医院、別府の富士見病院、京大付属病院及び四条大宮病院で診察を受け昭和五六年四月一日以降復職して現在ではほぼ回復している。
原告は、右の外昭和三九年一月頃ベーチエツト氏病(同症の原因は未だ解明されていないが膠原病類似疾患といわれ、疾状は再発生前眼房蓄膿性ブドウ膜炎ないし虹彩炎アフタ性口内炎、外陰潰瘍および皮疹を主徴候としこれらが反覆出没して慢性経過をとる。)に罹患し同四〇年一月二一日左目剔出手術を受け、同四九年一月一四日頃再度右病気で治療を開始しており、その外昭和五一年一月八日頃感冒上気道炎左足親指関節のリユーマチ様変化により、同年二月二四日頃口唇炎により、同年三月二四日頃高尿酸血症で同年七月頃両膝関節打撲により、同年一〇月九日頃右中指疽により、昭和五二年二月一五日痔によりそれぞれ治療を開始しており、また比較的低血圧であつて持病や既往症も多いが、いずれも原告の訴える前記症状との関係は明らかでない。
四 (損害)成立に争いのない乙第一、第二号証、同第五号証、証人遠藤要平の証言、原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認める甲第四号証の一ないし四、同第六号証の一ないし五と証人遠藤要平の証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果及び弁論の全趣旨を総合すると次のとおり認めることができる。
(一) 逸失利益 原告は大阪市西区靱本町一丁目四番八号太平住宅株式会社大阪支店に外務従業員として勤務し、総所得として昭和四八年分六五五万九二〇〇円(うち給与一七八万〇五〇〇円、外交報酬四七七万八七〇〇円)、同四九年分六四二万五八九五円(うち給与二三二万九七〇〇円、外交報酬四〇九万六一九五円)、同五〇年分四五二万〇三八八円(うち給与一八五万三八〇〇円、外交報酬二六六万六五八八円)、同五一年分五七九万〇六四七円(うち給与一八八万六二〇〇円外交報酬三九〇万四四四七円。但し、一〇か月分として算定する。)を得ており、外交報酬のうち四〇パーセントは経費であるから、実収入は昭和四八年分四六四万七七二〇円(給与一七八万〇五〇〇円と外交報酬のうち二八六万七二二〇円)、同四九年分四七八万七四一七円(給与二三二万九七〇〇円と外交報酬のうち二四五万七七一七円)、同五〇年分三四五万三七五三円(給与一八五万三八〇〇円と外交報酬のうち一五九万九九五三円)、同五一年分四二二万八八六八円(給与一八八万六二〇〇円と外交報酬のうち二三四万二六六八円。前同一〇か月分。)であつて、その間の一年間平均実収入は四四九万〇八八三円(一日当り一万二三〇四円、一月当り三七万四二四〇円)となる。前記受傷内容程度受診状況等からみて第一事故による労働能力喪失率は、事故日の昭和五一年一〇月二六日より同五二年八月二一日まで(三〇〇日間)五〇パーセント、同年八月二二日から同年一〇月六日まで(四六日間)一〇〇パーセント、同年一〇月七日から症状固定時である昭和五三年四月七日まで一八三日間二〇パーセント、その後一年間(そのホフマン係数〇・九五二)五パーセント、第二事故による労働能力喪失率は、昭和五三年四月八日から症状固定した同五四年三月三一日まで(三五八日間)三〇パーセント、同年四月一日から一年間(そのホフマン係数〇・九五二)五パーセントとするのが相当であり(但し、第一事故による後遺障害に基く逸失利益として前に認定したところを考慮したものである。)これによる喪失額は、第一事故につき三〇七万五六七六円、第二事故につき一五三万五二一六円である。
1万2304×300×0.5=184万5600……<1>
1万2304×46=56万5984……<2>
1万2304×183×0.2=45万0326……<3>
449万0.883×0.952×0.05=21万3766……<4>
<1>+<2>+<3>+<4>=307万5676
1万2304×358×0.3=132万1450……<イ>
449万0883×0.952×0.05=21万3766……<ロ>
<イ>+<ロ>=153万5216
原告は、右の外、失つた昇給分、退職金、退職年金を損害として主張するけれども、前記事実と証人遠藤要平の証言、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によると、歩合給である外交報酬が原告の主たる収入であり退職金等の算定基礎に不確定要素の多いことが認められ、また前記認定のとおりの労働能力喪失率と期間程度の場合にこれらを考慮するのは相当でなく、これら退職金等の減少があつたとしても本件各事故と相当因果関係ある損害とすることはできない。
(二) 治療費 甲第七号証(メモ書)によると、原告は黒瀬敬輔医師、山崎佳郎医師、河野稔医師及び長谷川療術院等の診療を受けたことを窺わせる記載があるけれども他に右診療を受けた事実を認めるに足りる証拠がなく、さらに右診療の時期、傷病名、治療内容、費用の額及び費目等を認めるべき証拠は見当らないので、これらの受診により原告が費用を負担しているとしてもこれらの出費と本件各事故との間に因果関係を認めることはできず、他に原告請求の治療費を認めるに足りる証拠はない。
(三) 慰藉料 本件第一、第二各事故の態様、それぞれの事故に伴う被害者の負傷の部位程度、治療経過、後遺症の内容、程度等本件に顕れた一切の事情を斟酌すれば原告が請求しうべき慰藉料の額は、第一事故につき一二〇万円、第二事故につき一〇〇万円とするのが相当である。
(四) 損益相殺 原告は、第一事故に関し労災保険から二六〇万五六八〇円、自賠責保険から四〇万二九一一円合計三〇〇万八五九一円、第二事故に関し自賠責保険から一五六万円の限度でこれらを受領したことは各当事者間に争いがなく、これを越えて本件各事故に対し支払がなされた事実を認めるべき証拠がない。
そうすると、原告は、被告井上、同山川プロパン瓦斯に対し各自前記(一)及び(三)の第一事故による損害合計額四二七万五六七六円から右三〇〇万八五九一円を差引いた残額一二六万七〇八五円及びこれに対する第一事故による損害発生の日以後である昭和五一年一〇月二七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告トヨタレンタリース京都に対し前記(一)及び(三)の第二事故による損害合計額二五三万五二一六円から右一五六万円を差引いた九七万五二一六円及びこれに対する第二事故による損害発生の日以後である昭和五三年四月九日から完済に至るまで前同年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めうる。
五 よつて、原告の被告らに対する本訴請求は主文一項(一)(二)記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田秀文)